他人の「責め言葉」に心底怯えてしまうのはなぜか〜得体の知れないモノにみる「敵意」〜

台風に、津波に、「バカヤロー!」って叫びたくはなるけれど…

台風や津波や地震のような「自然災害」は、テレビでも新聞でも報じられている通り、
私達の暮らしを脅かす「恐怖」です。

テレビや新聞でそれを見る限りは、
「恐ろしいな…」
という思いは起こりますが、それらの現象に対して怒りや憎しみを起こすようなことはないと思います。
なぜなら「自然現象」なのだから。
それらの自然の営みに対して怒っても恨んでも、仕方がないことですよね。

確かに、その自然現象のために、大切な家や車など財産を失ったり、まして大切な家族の命が奪われたならば、
「これも自然現象なのだから、恨んでも仕方がない」
なんて冷静に思うことは難しいかもしれませんが…
それでも、こればっかりは「恨みの対象」としてもどうしようもありませんね。

雨にしたって、風にしたって、火山の噴火にしたって、地震にしたって、
地球上の自然の因果の法則に則って、淡々と「変化」が起こっているのは当たり前といえば当たり前の事です。
そもそも、そういう「変化」が起こってくれていなければ、地球に生命が誕生することなかったでしょうし、生命が維持されることもないでしょう。
私達が、
水を飲むことも、
食べ物を食べることも、
元気に動き回れることも、
「呼吸」することさえも、
この自然の「変化」が起きてくれなければ、何一つ保たれません。
だからこそ、
「自然の恵みに感謝」
と、古くから言われ続けているわけですね。

ただ、その自然が必ずしも「感謝」できる変化ばかりは起こしてくれないというわけです。
巨大な「自然」の力の前では、あまりに小さくちっぽけな存在となってしまうのが人間です。
科学文明の発達で、「コントロール出来ている」などと思うのはあまりの自惚れと、
巨大な自然災害の前で為すすべなく、全てを奪われてしまう人間の姿から思い知らされます。
「自然」側は、何の悪意も害意もなく、淡々と起こしている「変化」が、人間の生活にとっては、時に「驚異」となる。
私達人間の都合など、自然にしては「知ったことではない」わけです。
ここにもまた、「人間がこの地球で生きる」ことのシビアな現実を見るのですね。

確かに「自然」相手ならそうかもしれないけど、「人間」相手だと、話は変わって来ますね。
ニュースで報じられる「被害」でも、
それを「人間」の、しかも「身勝手な心」が引き起こしたとなると、
自分が被害に遭っていなくても、怒りが奥底から沸いてきます。
被害の規模からいえば、自然災害によるそれよりも、人数も範囲も小さなものであっても、
「人間のこんな身勝手な行為で、これだけの人が悲しみのどん底に…」
なんて話は、聞いているだけで胸糞悪い気持ちになります。

そしてこれが「身近な人間」が引き起こす被害を自分が被ったとなると、
それがささいな事であっても、ちょっとした不愉快であっても、
腹が立って仕方がない、憎悪が止まらない、何なら一日中イライラしています、
場合によっては、一生忘れられない憎しみになってしまう。

台風や大雨で家が流されてしまった悲劇は、もちろん一生忘れられないことでしょう。
だけど、
「会社で多くの同僚の前で上司から罵倒された」
こんな、目に見える損失もなければ、明日になれば誰も覚えていないような「被害」でも、
「あの人から、こんなことを言われた…」
の思いは、場合によっては一生忘れられません。
同じ「被害」でも、それが「他人相手で起きたものになると、精神的ダメージが格段に大きくなってしまうのですね。

得体の知れない驚異から「敵意」を感じる時

昔は、「自然」というものは「得体の知れないもの」でした。
どうして突如、空から水の粒が大量に降ってくるのか。
どうして突如、大きな音と光と共に、恐ろしい電撃が地上を襲うのか。
どうして突如、地面が揺れ始めるのか。
どうして突如、山の頂上から燃える石やら高熱の液体やらが吹き出してくるのか。
その原因が解明できない間は、人間側で想像するしかありません。

雨、雷、自身、台風…それらによって、私達の意思が脅かされ、妨げられてしまう…
そうさせるこれらの現象もきっと、何かの「意思」によるものに違いない。
私達に何かしらの「悪意」が向けられていて、恐ろしい攻撃を受けているに違いない。
そんな想像をするのは、無理もないことでしょう。
それで、いわゆる「神の怒り」という概念が出来たわけですね。

同じ被害を受けるにしても、得体の知れないモノによる時ほど、
その恐怖は強く、そしてそこに自分に対する強い「敵意」や「悪意」を想像します。
それがまた、さらなる恐怖を生み出してしまいます。

しかし「自然」に対してならば、現代に至るまでに目覚ましい自然科学の探求が進み、
かつての「謎」であった、様々な現象が解明されています。
「上昇気流が発生すると共に、上空に水の粒が集まった『雲』が出来て、そこから水が落ちてくるのが『雨』」
「『雲』の中で起きた強い摩擦から生じた静電気が、地上に向かって放たれたのが『雷』となる」
「地球を覆う『プレート』が、『マグマ』の運動にともなって動いており、複数の『プレート』の接点でひずみが生じた時に、強い揺れを起こすのが『地震』」
こんな風に、「自然」の法則や仕組みが次々と解明されてゆくと、「得体の知れない恐怖」は消えてゆき、「悪意」による被害という感情はなくなります。
そして後はただ、「対策」をするのみです。

「本質」の解明から恐怖が薄れ、
自分の想像で生み出した「悪意」なるものは幻想だと気づき、
その「本質」にのっとった「対策」に全力を尽くすのみ、となる。

この思考プロセスこそ、人間があらゆる「驚異」に立ち向かうための最強の武器と言えるかもしれません。
ならば、同じ事が「人間」相手にも出来ないものでしょうか。

しかし、「自然」は解明できても、「人間」の解明は実に困難を極めるものです。
「いやいや、『人間』といったらそれは他ならぬ『自分』の事なのだから、真っ先に解明できるものではないか?」
と思えそうなのですが、「自分」の解明は、「自然」や「物理」や「政治」や「経済」の解明とはまた違った困難さがあります。
最も「身近な」ものであるのに…いや、「身近」過ぎるが故に、解明は難航してしまうのですね。

だから、「他人」の言動が自分に被害を被らせる時には、
他の原因によるそれよりも、ずっと大きな恐怖を覚えるのですね。
そして、「人間」の得体の知れなさ故に、私達は勝手に恐ろしい想像をし、「悪意」や「敵意」を、そこから強く感じてしまいがちなのです。
そしてそれが、精神的ダメージやストレスを、より強烈なものにしてしまっているのですね。

他人の言動も、あたかも「自然」を見るように…

自然や他の様々な現象の解明も大切ですが、
「人間」の解明ほど大切なことは、本当はないのですね。
何より「私自身」の事ですし、
なんと言っても私達は「他人」と常に関わって生きていますし、常に大きな興味の対象となるのが「他人」なのだから。
その「人間」存在について、深い「謎」を抱えたままでは、ストレスは増大する一方です。

仏教はまさにこの「人間」の解明が徹底している教えです。
そのキーワードが「煩悩」です。

人間が一人一人、108つ持っている、己を煩わせ悩ませる「心」が煩悩であり、その代表が「欲望」です。
ちょうど、「地球」は地軸を軸として同じペースで回り続けており、個人の力でそれを止めることはできないように、
「人間」は常に「欲望」という煩悩に動かされ続けており、この性質を変えることは不可能と言われます。
地球の自転を止める事よりも、
「人間が欲望によって動き続けている」
という現実を止めることは不可能なのですね。
いち個人がどれだけ抗おうにも、抗いようのない「真実」です。
だから私達は、
「欲望によって動かされている」
という枠組みの中で、思考したり判断したり行動したりしているというわけです。

「煩悩」を理解するということは、そんな人間の普遍的な本質を知るということです。
あらゆる思考も判断も発言も行動も、この「煩悩」から出ているのだから、
自分や他人の様々な行動や発言の背景に「何」があるのかが、本質的に分かるのですね。

これを明確に知ることは、対人間における恐怖やストレスを克服する上でとても有効です。
ちょうど、自然現象のしくみや原因を知るようなものです。
「分からない」ことが、恐怖でありストレスであり、惑いの元なのですね。
その実態が何であれ、「知っている」ことは、この上ない強みです。
他人から、「攻撃的だな」と感じる事を言われたりやられたりした時に、
「きっとその背景にこういう煩悩が渦巻いているのか…」
という事が分かり、より冷静になることができます。

低気圧が発生すれば、雲が出来て、雨や雷が降り始めるように、
「欲望」が何かに妨げられると、「怒り」が出てきて、攻撃的な言動が始まるものです。
「褒めて欲しい」
「話を聞いて欲しい」
「努力を見ていて欲しい」
「他人から大事にされたい」
人間の心の底にうごめく様々な欲望のうち、どの欲望がどんなきっかけで妨げられるとも知れません。
その種類は様々ですが、「欲望が妨げられたから怒っている」という原則は変わりません。
それは自然現象よりも必然的なものと言えます。
そういう事が分かると、必要以上に恐れたり、逆ギレしたりすることなく、
「ちょっと、怒りの暴風が収まるまで距離を置いて避難していようか」
ぐらいの冷静な対処も出来るわけですね。

「煩悩」を深く理解し、人間をみる冷静な視点を養うことは、「煩悩の林」とも言うべきこの人間社会を生き抜く、大きな力となることでしょう。

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